MUSICAL FEATURES
SSF Entity Ultra-Kick(UK)は、デュアルコア・レゾネイターを搭載する新しいキックドラム・シンセサイザーです。前身にあたるEntity Bass Drum(BDS)のシングル・コア設計を進化させた本機では、周波数成分を扱うメインのコアに加え、CHARACTERと呼ばれる2番目のレゾネイターコアを実装します。UKの主要機能であり、多彩なインパルス/アタックの生成能力と全体的な音響特性を決定づけるCHARACTERコアは、RIPPLE機能を介してメインコアでモジュレーションすることができます。BDSの出力ステージに配置されていたサチュレーション回路は改良され、新たにメインコアとキャラクターコアの間に実装します。また、Autodyneゆずりのコンプレッサーも内蔵。ニューヨークスタイルのミックスバランス・コントロールとサイドチェイン機能を備えます。
HOW TO USE
Interface
マウスオーバーで各部の説明が表示されます
Trigger
Ultra-Kick(UK)は、モジュール中央のトリガーボタン、または0Vから2.5Vで遷移するあらゆる正極の信号を使ってトリガーすることが可能です。TRIG入力にパッチされた任意の信号は、内蔵のトリガー調整回路によってモジュールが作動するために必要とする適切なトリガーの振幅とデュレーションに整形されます。トリガーがアクティヴな時はフロントパネルのLEDが点灯し、TRIG入力が使用されている場合は入力信号のデュレーションを示します。
Tracking Volt/Octave
最低5オクターブのトラッキング性能を持つV/Oct入力を利用して、ピッチCVに正確に追随するベースラインやパーカッシヴなメロディーを作成できるほか、例えば1オクターブ以内で変化するシーケンスをパッチすることで、ドラムパターンに心地よい変動性を持たせることができます。
Resonate Control
上のイメージは、RESONATEコントロールがどのように波形に影響するかを示したものです。メイン・レゾネイターが入力トリガーによって励起され、励振によって生成された共鳴音の量をRESONATEの値で定義します。この励振は、共鳴音のトランジエントが終了する前に次のトリガーがレゾネイターのコアを再び励振させない限り、最終的には完全に減衰します。
トリガー信号はUKでサウンド・デザインをするために必要不可欠ですが、RESONATEコントロールが最大値、またはそれに近い状態の場合を除きます。これはモジュールが自己発振するために必要な高いフィードバック値である特別なケースです。なお、自己発振にトリガーが必要でなくとも、トランジエントにクリック感を与えることができます。このように、RESONATEはUKで作成したサウンドの全体的なデュレーションを変更します。続くセクションでは、この機能とPITCH ENVELOPEとの相互作用による多彩なキック、ベース、およびその他のパーカッシヴなサウンドの獲得方法を解説しています。
Envelope Controls – Pitch Decay & Depth
UKは固定アタック、VCディケイの準指数形エンヴェロープ・ジェネレータを内蔵します。このエンヴェロープは、メインおよび特性(CHARACTER)レゾネイターの周波数変調用の制御電圧、および特性コアのレゾナンス応答に作用する固定振幅のコントロール信号を提供します。ENV出力からはエンヴェロープ信号の固定振幅版コピーを利用できます。これは外部モジュールへの使用、またはUKの電圧コントロール型の機能の一つにセルフパッチすることができます。また、DUCK出力からは外部VCAのダッキングのためにスケーリングと反転され、正極にオフセットされたバージョンのエンヴェロープを利用できます。DEPTHはモジュレーションの深さ/強度を、PITCH DECAYはモジュレーション・エンヴェロープの減衰時間を変更します。上のイメージ中には、エンヴェロープが波形にどのように作用するかを表す簡素化された3つの例が示されています。ここでは、RESONATEコントロールによって決定される波形のデュレーションは、エンヴェロープの減衰時間より短い場合も長い場合もあることを理解しておくことが重要です。減衰時間と共振時間を一致させたい場合は、両パラメータを適切に調整する必要があります。
Frequency Contorol
メイン・レゾネイターコアのピッチはFREQUENCYコントロールで設定します。このコントロールの幅はおおよそ8Hzから80Hzですが、設定する「基礎」周波数と結果の出力周波数との間には差異が生じます。これは変調エンベロープの深さとデュレーションに大きく依存するもので、設計上、変調エンベロープが落ち着くまでメイン・レゾネイターのピッチを上昇させます。この挙動は前述のエンヴェロープのセクションでも触れましたが、目的のサウンドを得るためには理解しておく必要があります。このことから、FREQUENCYコントロールで設定されたピッチは、内部またはV/OCT入力による外部からのモジュレーションの基礎レベル、またはオフセットとして動作すると考えると良いでしょう。
RESONATEとENVELOPEコントロールのセクションの詳細を参照して、これらのパラメータがどのように相互作用し、幅広いサウンドを生み出すかを理解する必要があります。以下に、いくつかの例を挙げてこれらのポイントを説明します。
- 素早く、力強いインパルスのローエンドを持つサウンド: PITCH DECAYを最小値に、DEPTHをハイミッドまたはハイに、FREQUENCYをローミッドに設定して目的の最低ピッチに合わせます。RESONATEを調整することで任意のデュレーションを得ることができます。
- 柔らかく、弾むキックドラム: PITCH DECAYをミッドまたはローミッドに、DEPTHをミッドに、FREQUENCYを12時よりも少し低い値に設定します。RESONATEを調整することでキックのローエンドの長さをコントロールします。
- 進化したミッドタムまたはハイタムのサウンド: 長めのピッチエンヴェロープで特性コアのレゾナンスに活力を与えるためにPITCH DECAYを高めに設定します。DEPTHをノブの12時ほどに、FREQUENCYを12時と3時の間ほどに設定します。RESONATEの11時から2時あたりでデュレーションを決定します。
- 異次元のレーザー・キック: レーザー光線を照射したい長さの分でPITCH DECAYを設定します。DEPTHは高めに、レーザーの着地点で求めるピッチに合うようにFREQUENCYを設定します。DECAYコントロールで設定したレーザー光線の長さに合うようにRESONATEを設定します。
上記の例のいずれも、続くセクションで記す6つのサウンド・シェイピングパラメータを利用することで更に改良することができます。
Punch Control
Punchは、インターステージ・トランジスタのソフトクリッパー/サチュレーターをコントロールします。ソフトクリッピングは信号にゲインを加え、 最終的に波形のピークをカットすることでディストーションを生成する、ハードクリッピングに似たコンセプトです。この種のディストーションは、クリッピングさせるトランジションで高周波が発生するため、荒々しいサウンドと考えられています。ソフトクリッピングは、これらのトランジションを丸めることで、より温かく、重低音のディストーションを生み出します。本機のPunch回路は、メイン(FREQUENCY)レゾネイター・コアの出力と、特性(CHARACTER)レゾネイターコアへの入力の間に実装されています。Punchコントロールが絞り切られた最小値の場合、入力信号は歪まずに若干アッテネートされます。Punchを少しずつ適用していくと、ボリュームとローエンドがブーストされ始め、ソフトクリッピングの領域からさらに高い設定値ではサチュレーションが適用されます。また、モジュール下部のPUNCH CV INPUTからパラメータを電圧コントロールすることもできます。
Character Control
Characterは、UKのデュアルコア構造の2番目のレゾネイターをコントロールします。このレゾネイターの最終ステージでは、励起された波形のインパルス・トランジエント、および全体的な音質の優れたコントロールを提供します。このパラメータのエフェクト幅は、インパルス・トランジエントの繊細なバリエーションからユニゾン・エフェクトまでで、メイン・コアの共鳴波形の全体的なローパス・フィルタリングも実行します。このレゾネイターはメインコアの出力によって励起され、メインコアと同様に内部エンヴェロープでピッチ変調されます。メインコアと1V/Octトラッキング入力をシェアしますが、レゾナンス応答は異なります。Characterのレゾナンス応答はより減衰されたものであり、RESONATE設定の影響を受けません。EnvelopeとFrequencyのセクションで触れたように、PITCH DECAY ENVELOPEはCharacterのレゾナンス回路と結びついており、Characterコアのイニシャル・インパルスを励起するための特別なパワーを提供します。これにより、アクセントやクリック、パーカッシヴなアタック・スタイルを総体的にコントロールできる斬新な方法を提供する、より複雑なインパルス・トランジェントを作成します。Characterレゾナンスは、DECAYエンヴェロープの時間を長くすると減衰量が少なくなり、2つのコアがごく短い時間でぶつかり合うようになることで、イニシャル・インパルスのトランジエントに複雑さを追加します。これらの効果は、次のセクションのRIPPLEコントロールと併用することでより一層強調され、より複雑な領域に入ります。なお、CHARACTERパラメータもモジュール下部のCHAR CV入力とアッテネーターを利用してモジュレーションすることができます。
Ripple Control
Rippleは、励起されたメイン(FREQUENCY)レゾネイターの波形をCHARACTERレゾネイターコアの専用FM入力に導入します。 特にCharacterやPunchパラメータと組み合わせることで、インパルス・トランジエントのサウンドの幅を拡張します。Rippleのレベルを上げると強さと幅が増し、興味深いFMやウェーブ・ディストーション効果が得られます。Punchは、設定によってRippleの効果を劇的に変更します。Punchが最小値の場合、Rippleの効果は最もクリーンなものとなるため、極端に激しいサウンドは得られません。ノブ設定を約9時以上にしてPunchを加えると、インパクトとトランジエント効果を高めるために荒々しさと存在感が強調されます。Punchの値を極端に上げると、Ripple効果よりもディストーションが優先されます。CharacterのレベルもRippleの効果に影響を与えるため、Ripple, Punch, Characterの各レベルの設定次第で様々な効果が得られます。また、RESONATEのレベルを上げることでメイン(FREQUENCY)レゾネイターコアがRippleを介してCharacterコアに与える影響が大きくなります。このように、Rippleはイニシャル・トランジエントのサウンドデザイン以外にも、ウェーブシェイピング機能として活用することができます。例えば、FREQUENCYセクションのタムドラムの例にRippleを少し加えることで、タムやボンゴのシンセシスを大きく改善することができます。
Dynamics
Dynamicsの機能セットは、Feed-forward式のオート・コンプレッサー、BASS DRIVEと呼ばれる電圧制御の6dB/Oct high-passサイドチェイン・フィルター、DYNAMICSとラベルされたニューヨーク・スタイルのwet levelクロスフェーダー、およびディスクリート・フィードバック型のディストーション・リミッターを搭載する電圧制御のGAIN-DISTORTIONで構成されています。
- AUTO COMPRESSOR: このFeed-forward式のコンプレッサーは、CHARACTERコアを励起する信号レベルを検出し、この信号の周波数成分の振幅に自動的に応答します。 一部のコンプレッサーとは異なり、アタック/リリースの独立コントロールで時定数を設定するのではなく、UKのサウンドパレットに合わせたレベル検知による自動アタック/リリースを採用しています。 このため、サイドチェイン・フィルターを通すか否かでコンプレッサーの作動が変わります。
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BASS DRIVE: 電圧制御のサイドチェイン・フィルターです。このコントロールの値を上げることで、コンプレッサーのサイドチェインに入る低周波を排除し、基本的にサイドチェインがそれらを感知しないようにします。これにより、フィルターのカットオフ周波数以下の低域が圧縮されなくなるため、後続のGAIN-DISTとLIMITER回路を比較的安全に通過させることができます。これらの周波数を強調できる一方で、リリース前の影響を受けやすくなり、DEPTH、FREQUENCY、RESONATEの値によっては、リリース後のディストーションもより顕著になる場合があります。少しだけ詳しく触れると、PITCH DEPTHはもちろん、励起された波形の周波数を、波形のイニシャル・インパルス部分のサイドチェイン・フィルターのカットオフより高くし、コンプレッションを開始させます。FREQUENCYは、波形が最終的に落ちるオフセットとピッチを設定し、RESONATEは、信号が完全に減衰する前にその低いレベルに実際に到達するかどうかを決定します。RESONATEがコンプレッサーのリリース・フェイズを超えるのに十分な長さに設定されている場合、BASS DRIVEを通過する低周波の音量は波形の最初の半分よりも大きくなります。大半のキックドラム・サウンドは短く(低いRESONATE値)、コンプレッサーの時定数内に収まりますが、この動作と、必要に応じてそれを補正する方法を理解することが大事です。BASS DRIVE, PUNCH, GAIN-DISTの調整はすべてゲインに影響し、すべての場合でローエンドのディストーションを強調、または軽減します。また、基本的にはBASS DRIVEを使用して低音にブーストを適用可能です。
上のイメージは、高い共鳴値の波形でのコンプレッサーの動作を簡素化した表現で、コンプレッションの段階は青色で示されています。また、ピッチエンヴェロープも緑色の点線で重ねて描かれています。紫色の部分、波形の後部には、BASS DRIVEのカットオフ周波数によって定義される最大ゲインが発生する領域があります。
※BASS DRIVEフィルターの周波数レンジはおおよそ20Hzから530Hzです。そのため、BASS DRIVEを高い値に設定することで、高周波にPre-releaseのディストーションを適用することも可能です。
また、BASSとラベルされたCV入力は、この機能の電圧コントロールを提供し、この場合はコントロールノブがオフセットとして機能します。負極のコントロール電圧を使用することで、カットオフ周波数をコントロールノブで設定できる値よりもさらに低くすることが可能です。正極電圧の場合は、ドライブ値を上げることができます。 - GAIN-DIST: コンプレッサーの出力ステージです。このコントロールを少量で使用することで出力レベルを上げることができるため、サウンド全体に存在感を加えたい場合に特に便利です。高い値になると、コンプレッサーのVCAと後続のリミッター・ステージの両方をオーバードライブさせるため、最終的にはディストーションを導入します。PUNCHとBASS DRIVEを高い値に設定した場合もディストーションの効果に影響するため、これら3つのパラメータを調整することで、様々な趣のサチュレーション、ゲイン、ディストーションを得ることができます。電圧コントロールはGAINとラベルされたCV入力から利用できます。正極の電圧はゲインとディストーションを増加させ、負極の電圧はそれらを減らすと同時に必要であれば出力も減衰させます。CV入力を使用した場合、コントロールノブはCVのオフセットとして機能します。
- DISTORTION LIMITER: 最終出力ステージは、ディスクリートのフィードバック・リミッターで構成されます。このリミッターは、位相反転ディストーションの影響を受けやすい外部モジュールによって出力がオーバーロードしないよう、おおよそ19.5Vppの最大振幅を維持します。また、このリミッターを使用することで、さほど大きなゲインを必要としない様々なタイプのディストーションを発生させることができます。信号にゲインを加えるコントロールの上限に達すると、出力も激しくつぶされ、クリッピング・ディストーションのレイヤーが追加されます。
- SIDE-CHAIN INPUT: 外部サイドチェイン入力でSDCHNとラベルされています。キックドラムにサイドチェインを適用することは、あまり一般的ではありませんが(例えば、キックは通常ベースラインをダッキングするサイドチェインとして使用されるため)、この入力を正しい種類の信号と共に使用することで更なるトランジエントのシェイピング能力を提供します。これらを利用するための基本的な2つの方法があり、1つは比較的シンプルなもので、もう一方は少々繊細で高度なものです。SDCHN入力に信号をパッチした場合、UKの波形はサイドチェインから完全に外れるため、BASS DRIVE、PUNCH、GAINは最小に設定します。どこかのポイントでこれらを再びいくらか加えたくなると思いますが、最小値を初期設定として始めることで最良の結果が得られます。最もシンプルな手順は、この入力に他のパーカッシヴな要素を適用します。例えば、他のパーカッシヴな要素がアクティヴな時にUKのレベルを少しだけ圧縮したり、複数のキックをレイヤーして異なるキックの動的コンテンツでUKのダイナミクスをコントロールできます。より高度な手順として、UKの励起に使用しているものと同じトリガーでファンクション・ジェネレータをトリガーし、ファンクションの出力をSDCHN入力にパッチします。コンプレッサーの擬似アタック/リリース・コントロールのように作動するこの方法では、ファンクションのタイミングがUKの出力波形の大部分の長さと一致している必要があります。アタックタイムを増加させることでコンプレッサーの初動を遅らせ、UKが生成するトランジエント波形のフロントエンドを増強します。リニアおよびロガリズミック、どちらのファンクションでも興味深い結果となる傾向にありますが、特にリニアのフォール形状を使用する場合はこれらのタイミング要素は比較的速く設定する必要があります。リリースタイムを増やすことで、波形の最も圧縮された部分を整復します。これはトランジエントがどのように聞こえるかというコンテキストからダイナミクスを微調整するだけでなく、キックが他のパーカッシヴな要素とミックスされる方法を改善するのにも便利です。
- DYNAMICS CROSS FADER: コンプレッサーのドライ/ウェット・コントロールで、DYNAMICSとラベルされています。この機能の使用はオーディオ・エンジニアリングの世界でニューヨーク・スタイル・コンプレッションとして知られています。このコントロールを最小値に絞り切ってDYNAMICSセクションを完全にバイパスすることもできますが、このコントロールは圧縮されていないオリジナルの信号と完全に処理されたコンプレッサーの出力をミックスする手段を提供します。これにより、ダイナミクスのコントロールが遥かに向上し、特に激しいディストーション・エフェクトの存在感を引き出すことができます。なお、BASS DRIVEとGAIN-DISTはどちらもコンプレッサーの一部であるため、DYNAMICSコントロールが100%バイパスに設定されている場合、これらの機能は無効となります。